定格電流値とは?
「電流値が異常」なのを知るには、正常の値を知らなければなりません。
その為、電動機には設計上安定して使用できる「定格電流値」というのを定めています。
また定格電流値には予定時間が定められており「連続定格」「15分定格」などがありますので確認が必要です。予定時間とは、定格電流値内であれば問題無く運転が可能となる電流値を指します。
定格電流値と比べて、運転させた際の電流値が高いか低いかでポンプの状態を推し量れます。
なお、遠心ポンプ(渦巻きポンプ・水中ポンプなど)と容積型ポンプ(ダイヤフラムポンプなど)では故障の想定が変わりますので分けて解説します。
遠心ポンプ(渦巻ポンプ)の場合
遠心型はポンプケーシング内で羽根車によって流体に力を与え、遠心力により揚水させます。
このタイプの電流値異常として想定されるのは
・電流値が定格の半分以下 → 空運転
・電流値が定格の半分くらい → 閉塞運転
遠心型は吐出先が閉塞(例えばバルブを閉めたままで運転させる等)すると、流体を遠心力でポンプケーシングに押し付けているだけの状態になります。
流体の加速が無くなるのでポンプ駆動軸への抵抗が減ります。よってモーター負荷が減り電流が減少します。
空運転も同様な理由(流体への加速がなくなる)で電流値が半分以下へ減少します。
空運転ではポンプシール部(メカニカルシールなど)への潤滑が行われない為、熱により焼損し、モータ部の故障へ繋がります。
閉塞運転ではシール部への潤滑は行われますが、流体の入れ替わりが無いためポンプケーシング内で温度が上昇し、変形などの故障へ繋がります。
電流値が過電流の場合
次は遠心ポンプ(渦巻きポンプ)が過電流の場合について解説します。
・電流値が定格以上 → 流量過多
・電流値が定格以上 → 軸動作不良
ポンプは同一条件化では、流量が多くなればなるほど電流値が増大するので、(仕事量が増える)過電流が出た場合はバルブ開度を絞るなどで調節をしてください。
また、閉塞運転を長時間続けた際に、ポンプケーシング内が高温になり沸点に近づいた結果、キャビテーションにより想定外の事由で駆動軸が損傷・破損し過電流となる事があります。
さらに腐食などで駆動軸がロックした際も過電流となります。
容積型ポンプの場合
容積型ポンプは密閉空間をポンプ内に作り、ダイヤフラムやピストンなどで押し出し流体を移送させます。
ダイヤフラムポンプやプランジャポンプ、一軸ねじポンプなどがあたります。このタイプの電流値異常は主に過電流が中心です。
不具合として想定されるのは
・電流値が定格以上 → 閉塞運転
・電流値が定格以上 → 吸い込み不良
容積型は出口が閉塞すると、構造上圧力を上げ続けてしまう為、電動機への負荷が上昇し電流値が上がります。
閉塞運転で長く運転させてしまうとモータ焼損やポンプ部の破損に繋がる為、過電流には注意が必要です。
同じく過電流の原因としては吸い込み側の詰まり(吸込み不良)も考えられます。
容積型は1回のストロークで吸い込む量と送り出す量が同じなため、吸い込みが十分でないと内部に真空を作り出すような作用が起き、電動機への負荷が増してしまいます。
また吸い込み不良はキャビテーションが起きポンプに不具合を起こす可能性もあります。
吸い込みバルブが開いているか、またストレーナへのゴミの詰まりが無いかなど、日常的なチェックにより予防できます。
予防と対策
電流値による不具合の想定について見てきましたが、傾向としては突然電流値が急変動するケースは少ないかと思います。
その為、日常的に電流値のチェックを行い、ある程度の期間で上昇/下降の傾向を把握するのをお勧めします。
例えば容積型ポンプである定量ダイヤフラムポンプの電流値が1年前に比べて上昇傾向にあるようでしたら、まずはポンプ接液部の分解清掃を行います。
その後も傾向が続くようでしたら注入点(サイホン弁)やストレーナの分解洗浄、できれば配管の詰まりもチェックします。
当然、電動機(モータ)の劣化や駆動部の劣化も考えられますので、事前にオーバーホールに出すのも故障した際のダウンタイムを鑑みると、経済的と言えます。
このように電流値を日常的にチェックすることのメリットとして、「数字として表れやすい」点にあります。
担当者の経験や勘に左右されやすい気泡の発生や振動音は異常の前兆であることに変わりありませんが、経験の浅い作業者にとっては見逃してしまうリスクがあります。
「今まで気にしてなかった!」というお客様は、ポンプの運転管理としてまずは電流値からしっかり計測することをお勧めします。
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本記事は下記の文献・図書を参考に作成されています。
「ポンプの選定とトラブル対策ー現場で起きた故障事例と対処法ー」2014年2月27日 ©外山幸雄 日刊工業新聞社
「トコトンやさしいポンプの本」2016年9月30日 ©外山幸雄 日刊工業新聞社
「新版 キャビテーション」2017年7月1日 ©加藤 洋治 森北出版