ボイラーってよく聞くけど・・・

ボイラーと聞いてまず初めに思い浮かぶものは何でしょう?

「熱を持たせるもの」

「動力のひとつ」

「蒸気が出ていて、触ると熱そう」

あなたが普段からボイラーを扱ったり、ボイラー技士の資格を保有している、または勉強したことがない限りは概ねこんなところでしょう。

一般的には「ボイラー」と名前だけは知っていてもそれがどんなところで使用され、ましてやそれがどんな仕組みで、どんな役割を果たしているのか、というところまで知っている人の方が少ないのは確かです。

例えば、ボイラーと一言で言っても、構造や燃料などによって、いくつもの種類が存在すること、そして、それらが私たちの身の回りの各方面で役に立っている事はあまり知られてはいないのです。

 

どういうモノなの・・・?

本号では、そんなボイラーについて、世界一優しいアプローチを目指して解説していこうと思います。

ボイラーという機械そのものの基礎知識やよく使われる用語の解説、利用用途による多方面での活躍のまとめ、さらにはボイラーが安全かつ適正に運転するための制御方法まで一挙ご紹介します。

また、ボイラーには意外にも我々の得意とする流体エンジニアリングと親和性が高く、ボイラーとそれらを関連付けながら読み進めることで、より一層深くボイラーについて知ることが出来るはずです。

 

それでは、早速「ボイラーが何に使われているのか」を知るとことから始めましょう!

準備はOKですか?それでは、ボイラーの世界へ出発進行!

 


ボイラーってなに?

普段から耳にすることも多いボイラーという単語ですが、「ボイラーって何ですか?」と聞かれると、少し困ってしまう方も多いかと思います。

ではまず、その語源に隠されたヒントから紐解いていきましょう。

英語の「ボイル(boil)」という単語は、お湯で食材を湯がく時に使われますが、ことボイラーも、この「ボイル」という単語から派生したとされています。

 

ボイルの意味は茹でること、液体を沸騰させることで、ボイラーは後者の「液体を沸騰させるもの」という意味合いとなります。

 

いわゆる工業的な解説をすると、ボイラーとはズバリ、

「密閉された容器の中に水などを入れて火や高温のガスで加熱し、蒸気や温水を作り出して他の設備や機器へ供給する装置」

という事になります。

そして、ボイラーという装置で、蒸気とか温水を作ることが出来るので、それをうまく活用しよう!という話なのです。

 

ボイラーは便利な反面、「密閉された容器を使用して蒸気を発生させる」という点から、ボイラー本体の中は圧力や温度がかなり高いことがうかがえます。

そういったことから、運転時のボイラーは圧力・温度上昇による膨大なエネルギーが蓄積されており、誤った取り扱いや保守管理を行うと、重大な事故につながる可能性がある事を認識しなえればいけません。

 

どこにあるの?

ボイラーは日常生活でよく目にする冷蔵庫や電子レンジ、テレビなどと違いあまり目にすることがない器機ではあります。

しかし、実はオフィスビル、デパート、学校、病院やホテル等といった大型の施設の暖房に活用されていたりします。

それだけではなく、上記で動く機械や装置、蒸気を利用する発電にも活用されるといった多方面での活躍をみせます。

 

では、私たちが生活する上で最も長い間過ごす自宅はどうでしょう?

台所や洗面所の小型給湯器や屋外に設置されるような風呂用給湯器はガスや灯油などによって、その中を通る水を加熱します。

すると次第に水温は上昇し、これによって温水が生成され、出来上がったお湯は蛇口やシャワーから吐出されます。

こうした加熱で得られた温水の配管系統を、床下に巡らせ部屋を効率よく温めるのが床暖房の仕組みで、こういったところにもボイラーが関わっている場合があります。

というのも、最近では家庭での温水の生成には、冷媒ヒートポンプ給湯器(エコキュート)が台頭し始めており、これらは空気の熱を取り込み圧縮することでお湯を生成する仕組みなので、ボイラーとは異なった給湯システムが構築され、一般家庭に行き渡っているためです。

 

ここまではあくまで一般家庭での利用方でしたが、本号で解説するボイラーは大量の温水や蒸気、膨大なサイジングが現実的なため、大型施設で使用される事がほとんどです。

 

例えば、セントラル暖房システムなどはまさに大型施設や寒冷地、ビルなどで使用されるボイラーを利用した暖房方法になります。

セントラル暖房システムは、大老の温水を作り出すための装置、そうですね、ボイラーを専用の部屋(ボイラー室などと呼ばれる)に配置し一カ所で作った温水を配管で各階や各部屋に配置した放熱器に送り込むことで、暖房するシステムを指します。

学校や病院などの廊下の壁際に蛇腹状の鉄の塊を見た覚えはありませんか?

まさしくそれがボイラー室から移送されてきた温水が通過し、放熱する放熱器なのです。

蒸気の活用

ここまではボイラーで温水を作ってその熱を暖房として使用する方法をご紹介しました。

しかし、忘れてはならないのが、ボイラーは温水と同時に蒸気も作り出すことができる点です。

 

冬になると、室内の空気が乾燥している。などと、よく問題になりますね。

そこで、広い空間の快適な室内環境を作り出すシステムとして、ボイラーで発生させた蒸気による蒸気式と呼ばれる加湿方法が多く活用されます。

蒸気式の加湿方法はシンプルで、蒸気ボイラーからの一次蒸気が加熱タンクを通り、空調機で温湿度を調整した後、目的の部屋に向かう仕組みを指します。

 

病院の手術室や集中治療室といった温度、湿度の設定が厳密に定められている空間などではこの蒸気式加湿がよく使われます。

さらに工業的には、衛生レベルを医療施設と同様にする必要がある製薬工場や、半導体製造工場では加湿し静電気放電を防止することで、不良品の発生を抑える為にボイラーを利用した加湿器や空調が広く活用されます。

 

ボイラーとブランデー

ボイラーと聞くとどうしても工業的なイメージが先行しますが、これまでにも私たちの身近なところにボイラーによる温水と蒸気が活用されている事がわかります。

ボイラーは「蒸留技術」にも深い関わりがあり、加熱方法をボイラーの蒸気によるものにすることで安全に蒸留することが出来ています。

蒸留といえば蒸留酒が思い浮かぶ方も少なくないと思います。

醸造酒を温め、蒸発してくるアルコール蒸気のみ冷却し、液体にして取り出したものが蒸留酒といい、ワイン(醸造酒)を蒸留したものがブランデーになります。

先行してお酒のお話が出ましたがそもそも蒸留技術とは、常温で液体あるいは1100℃以下で液体状態になる固体を加熱し、蒸気にした後に冷却、その冷却の過程においてそれぞれの沸点近くの各温度で異なる成分の物質を順次取り出していく技術を指します。

先ほども取り上げたように、これらはボイラーの作り出す蒸気によって安全に加熱することができるためお酒造りの他に化学工場でも重大な役割を果たしています。

ガソリンや各種石油化学製品の原料を作り出す化学プラント工場では石油を前述した蒸留し、その過程で重油、軽油、ジェット燃料や灯油、ナフサ(粗製ガソリンとも呼ぶ)が取り出されます。

さらに、この時精製されるナフサは分解工場にてエチレンやプロピレン、ベンゼンなどの石油化学製品の基礎製品に分離されます。

液体の石油を蒸気に変えるための加熱に直接火を当てるのは危険なため、こうしてボイラーの蒸気による間接的な加熱で安全に蒸留が出来ているのですね。