身近なスラリー
排水としてスラリー液が発生する場合など、破棄する物質の形状として生産的デメリットとして認識される場合が多くあります。
ただし、産業の生産プロセスに大きく貢献していたり、私たちの身近にその性質を利用した製品があったりと、その物がスラリー状であるメリットも多く持ち合わせます。
本章では、スラリーのメリットに着目して解説を進めて行こうと思います。
建築業界でのメリット
固形粒子が混ざった液体状の流動体をさすスラリーですが、この特性を利用し、建設工事ではセメントスラリーが昨今まで多用されてきました。
セメントスラリーとは、セメントと水を混合しミキシングしてスラリー状にした混合液を指します。
建設業におけるスラリーの特性として、左記が挙げられます。
①流動性
スラリーは固形物を含みますが、流動性がある為、狭い隙間でも入り込んで材料同志を接着させる効果を発揮します。
②自己充填性
自己充填性とは人の手で無理やり押し込まなくても材料を流し込んだだけで隙間を充填して空洞を残さない特性を指し、細かい建築工事などで狭い空間に使用する際に最適な材料です。
③セルフレベリング性
セルフレベリングとは自動的に広がって水平な状態で落ち着く性質のことで、通常表面をコテ仕上げして水平な状態に仕上げる作業が不要になります。
以上の特性を活かし、細かなひび割れの補修や、建築物の耐火性能を上げるためのセメントの吹き付けなど、
スラリー状でないと実現しない工程がいくつも存在します。
私たちが目にする時には既に水分が揮発し、硬度の高い個体として存在するセメントですが、
製作時にはスラリーとしての特性が大いに生かされ運用されています。
食品業界でのメリット
食品業界でもスラリーの特性を利用した用途として、アイススラリーが用いられます。
アイススラリーとは細かい氷の粒子が液体に分散した状態の飲料で、流動性が高いことから通常の氷よりも体の内部を効率よく冷やすといわれています。
スムージーでは氷の結晶のサイズが大きく硬いため、食品にあまり向いておらず、スラリーの結晶が小さく流動性がある点が評価された結果生まれた製品です。
アイススラリーは少量で効率良く体温を下げるので、胃腸への負担が少ない事も評価され、某食品メーカーのヒット製品であるスポーツドリンクの新たなジャンルとしてラインナップされています。
製造する装置もコンパクトで使いやすいため、スポーツの現場で水分補給の用途、熱中症対策として設置される例もあります。
また、氷と液体で作られるスラリーは食品としての形状が評価されているだけでなく、漁業や運送業界で魚の鮮度を保つために使用されるケースも多くあります。
俗に微細氷(細かな氷を含むスラリー)とも呼ばれる氷のスラリーは細かな氷の粒子が混在している特徴から、
氷のみでの保冷に比べ、漁獲物の表面を傷つけないメリットや、微細氷の特徴である瞬時に冷やす事に秀でているため、漁獲物を速く冷却し鮮度を保ちます。
生産加工業でもメリット
生産加工業や工作機械において、切断する、削る、磨く、など多くの過程がある事は容易に想像がつきます。
この過程の中でスラリーが最も活用されるタイミングが研磨の工程です。
研磨とは、金属加工方法の中でも表面仕上げとして用いられる加工工程であり、金属のみならずプラスチックや木材などを研磨加工する事もあります。
精度や美観が求められる製品に用いられますが、この際に研磨対象と研磨機材の潤滑・性能向上のために研磨剤が使用されます。
この研磨剤は、液状で用いられることが多く、砥粒粒子単位で細かくし、液に分散させたスラリー状の研磨剤です。
機械研磨でスラリー状の研磨剤を使用するメリットとして、安定した注入量の確保や、広範囲への効率的な塗布が可能である点が挙げられます。
人工的に塗布する事を鑑みても、スラリー状であると容器での販売がしやすい点や、持ち運びや使用が容易である点が挙げられます。
濃厚なスラリー液は非ニュートン流体の特性を持つため、人の手で容器を押し出すと、任意の量で調節できるといった点も、スラリー状ならではのメリットと言えるでしょう。
摩耗性スラリー
研磨剤は砥粒が含まれるため、その排水で生じるスラリーは摩耗性があります。
ポンプ等で移送する際、ポンプの接液部に押し当てられる際に少しずつポンプ駆動の要となる部分に損傷を加える事もあり、故障の原因となります。
また、砥粒に限らず、スラリーに含まれる個体粒子が硬質である場合には、その移送を行うポンプの選定には砥粒と同じく、注意する必要があります。
高粘度流体などを移送する際に使用される一軸ねじ構造のポンプなどでは、その移送構造から接液部のステーターが徐々に摩耗してしまう事で、液の移送が困難になり、十分な能力を発揮できなくなります。
移送したいスラリーに摩耗性がある場合は、ポンプの移送構造上、接液部に、ある程度の隙間が存在する構造の物を選定することを推奨します。